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スタートで前に出られるのは0.17秒差から。艇1隻ぶんです

2026年9月4日 ・ 競技の構造 ・ 対象 約26万レース
「1号艇のSTが0.20で、2号艇と3号艇が0.05なら、前に入られて逃げの形が崩れる」—— もっともです。ただし実データを見ると、崩れるのは差が大きいときだけでした。 0.10秒負けても1着率は41.8%を保ちますが、0.17秒負けると3.4%まで落ちます。 ただし検証を進めると、この境目は相手が何コースかで大きく変わることも分かりました。

ST差と1コースの1着率

約26万レースについて、1コースの艇が 「レース内で最も早い艇に対してどれだけST(スタートタイミング)で負けたか」で分けました。

1コースのST負け1着率起きる割合
先行している68.7%
ほぼ互角(±0.03秒)60.2%
0.03〜0.10秒 負け41.8%
0.10〜0.17秒 負け16.7%10.7%
0.17秒以上 負け3.4%2.6%

0.10秒までは、負けていても4割は逃げ切っています。 ところが0.17秒を境に、1着率は3.4%——ほとんど無くなります。

なぜ0.17秒なのか

競走用ボートの全長は約3.3メートル。スタート時の速度はおよそ秒速19メートルです。
3.3 ÷ 19 ≒ 0.17秒
つまり0.17秒の差とは、艇1隻ぶん前に出られている状態です。

艇1隻ぶん前に出られると、相手の引き波の外に自分が置かれ、 進路を押さえられます。逆に0.10秒差(艇の半分ほど)では、 まだ並んでいる状態なので、押さえ切られません。

この数字は統計から出したものですが、艇の長さという物理量と一致しました。 モデルの中に、競技の実体と結びついた境目が見つかったことになります。

ただし、この計算には「両艇の速度が同じなら」という前提が入っています。 実際にはコースによって助走距離が違い、速度も違います。 その点を確かめたところ、話はもう少し込み入っていました。次に書きます。

ただし、0.17秒は全コース共通ではなかった

ここまでは「レース内で最も早い艇」に対する差で見てきました。 検証を進めると、相手が何コースかで、同じ0.17秒の意味がまるで違うことが分かりました。

1コースが各コースにST差で負けたとき、1着率がどうなるかを分けて測りました (各組およそ47万レース)。

負けた相手0.10〜0.17秒0.17秒以上
2コース8.9%1.4%
3コース14.6%2.1%
4コース16.6%3.4%
5コース21.2%5.1%
6コース24.3%6.7%

内の艇に負けるほうが、はるかに致命的です。 2コースに0.17秒負けると1着率は1.4%ですが、 6コースに同じだけ負けても6.7%——約5倍の開きがあります。

加速だけでは説明がつかない

4〜6コースは助走距離が長く、スタート時の速度が速くなります(ダッシュ)。 速度が速いほど、同じ時間差でより長い距離を進むので、 ダッシュ勢どうしなら0.17秒より小さい差で前に出られるはず—— これは物理としては正しい理屈です。

ところが実データは逆を向いていました。 隣り合うコースで「外の艇が内の艇より上の着順に入る率が50%になるST差」を求めると、こうなります。

コースの組性質50%になるST差
1と2スロー同士0.072秒
2と3スロー同士0.030秒
3と4スローとダッシュ0.036秒
4と5ダッシュ同士0.044秒
5と6ダッシュ同士0.067秒
各組およそ47万レース。値が小さいほど、わずかな差で前に出られることを意味します。

ダッシュ勢どうしのほうが、大きな差を必要としています。 速度の理屈が正しいなら逆になるはずです。

効いているのは横方向の距離だと考えています。
6コースは1コースから艇5隻ぶん離れています。艇1隻ぶん前に出ただけでは、 まだ相手の前を塞げません。前に出たうえで、内側へ回り込む距離が要ります。
一方2コースは真隣にいるので、もっと小さい差でも影響します (実測では0.072秒で着順が入れ替わります)。
加速の効果は確かにありますが、この横距離の効果のほうが上回っていたということです。

つまり「0.17秒=艇1隻ぶん」は、 前に出るために必要な条件ではあっても、十分な条件ではありません。 外から仕掛ける艇には、そこからさらに距離が要ります。

モーターでも変わる

スタートで並んでいても、そこからの伸びが違えば結果は変わります。 ST差がほぼ互角(±0.02秒)の場面だけを取り出し、 モーターの出来(2連対率)で分けました。

コースの組外のモーターが劣る互角外のモーターが勝る
1と220.5%23.8%26.7%
2と339.9%43.9%47.1%
3と437.6%41.1%44.7%
4と537.4%40.6%43.9%
5と635.2%37.7%40.4%
数字は「外の艇が内の艇より上の着順に入った割合」。

全ての組で一貫して3〜6ポイント動きます。 スタートが互角なら、あとは伸びの勝負になるということです。

「差されるか、まくられるか」は、選手の技術の話であると同時に、 スタートで何メートル前にいて、そこからどれだけ横に動けるかという位置の話でもあります。

ではSTを予測できるのか

ここが難しいところです。実測STは事前には分かりません。 展示航走のST(スタート展示)を使えばよさそうですが、使えません

スタート展示のSTと本番のSTの相関は0.048——ほぼ無関係です。 展示はタイミングを合わせる練習ではないため、信号になりません。 公式が出している平均STのほうがまだ相関があり、それでも0.228です。

そこでモデルを組んで予測したところ、実測STとの相関は0.353まで上がりました。 平均STだけを使う場合(0.221)より改善していますが、 個々のレースでSTを当てられるわけではありません。 分かるのは「だいたいこのくらいの範囲に散らばる」という分布です。

そこで「Aの艇がBの艇に0.17秒勝つ確率」「0.10秒勝つ確率」という形で扱っています。 当てるのではなく、起こりやすさとして持つということです。

ここで一度まちがえました

2艇のST差のばらつきを計算するとき、最初は 「それぞれのばらつきを独立に足す」という素直な方法を使いました。これが誤りでした。

同じレースの艇のSTには相関0.467があります。 風や水面の状態は全艇に共通なので、全員が同時に早くなったり遅くなったりするためです。 分散を分けると、レース全体で共通する部分が0.0495、艇ごとの部分が0.0443でした。

差を取ると共通部分は打ち消し合うので、独立と仮定した計算は実測より38%も大きく出ていました。 その結果、「前に出られる確率」を過大に見積もっていたことになります。 縮小率を実測して補正したところ、予測2.0%に対し実際1.6%と噛み合うようになりました。

実際にどう効いているか

この考え方をモデルに入れたところ、 「内の艇に0.10秒差で並ばれる可能性」が、全99項目のうち重要度2位になりました。

興味深いのは、完全に抜かれること(0.17秒以上・発生率2.6%)よりも、 並ばれること(0.10秒・発生率10.7%)のほうが効いている点です。 めったに起きない決定的な出来事より、 日常的に起きる「並ばれて主導権を握られにくくなる」ほうが、結果を左右しています。 半艇身では前に出られませんが、その分だけ相手が有利になる—— その積み重ねのほうが効いている、ということです。

この検証について

使ったのは公開データだけです。実測STはレース後にしか分からないため、 モデルの特徴量には入れていません(入れると「結果を知っている」ことになります)。 実際、一度この混入を起こして、気づいて取り除いています。 取り除いた後も改善は残りました。

なお本稿は「STが読めれば勝てる」という話ではありません。 スタート展示が使えないことからも分かるとおり、 事前に分かる部分は限られており、その大半は市場も見ています。 ここで書いたのは、モデルが競技の構造をどう表現しているかです。

本稿の数値は特定の期間・条件での実測値であり、将来の結果を示すものではありません。 当サイトは公開データのみを用いた統計予測を提供するもので、的中や利益を保証しません。 舟券の購入は20歳以上の方に限られます。
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