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期待値で買うと、かえって成績が下がる

2026年9月4日 ・ 検証 / 買い方 ・ 対象 3,305レース(13,220点)
確率×オッズが1.0を超える買い目を選ぶ。もっともらしく聞こえるこの戦略を 実データで測ったところ、回収率は64.2%まで落ちました。 確率の高い順に素直に買った88.2%を24ポイントも下回ります。 しかもこの64.2%は確定オッズを知っていた前提の数字で、 実際に買える条件ではもっと悪くなります。なぜそうなるのかを、順を追って書きます。

期待値ベットという考え方

競馬でも競艇でも、期待値(EV)という言葉をよく見ます。 ある買い目の的中確率が10%、オッズが15倍なら、期待値は 0.10 × 15 = 1.5。 100円が平均150円になって返ってくる計算です。 これが1.0を超える買い目だけを買えば勝てる——理屈としては正しく、 実際わたしたちも最初はそう考えて仕組みを作りました。

ところがこの理屈には前提があります。手元の確率が正しいことです。 オッズは市場が決めるので動かせません。動かせるのは自分の確率だけで、 そこがずれていれば期待値もそのままずれます。 そしてずれ方には偏りがあります

実際に測った

2024年以降の3,305レースについて、公式サイトから遡って取得した 確定オッズを使い、「結果を見る前に買い目を決めてから清算する」順序を コードで強制して測りました。各レース4点、1点100円です。

先に断っておきます。ここで使っているのは確定オッズ——つまり 締切後に決まった、本来は買う時点では分からない値です。 遡って取得できるのがこれしか無いためですが、 言い換えると「確定オッズを知っていたら」という、実際にはあり得ない有利な条件で 測っています。後の章で、この差がどれだけ効くかを実測します。

買い目の選び方回収率95%区間
確率の高い順に4点88.2%77.9〜99.7
頭を分散させずに4点79.3%74.4〜84.3
期待値の高い順に4点64.2%38.4〜95.2
(参考)市場が完全に正しい場合74.8%
最後の行は「控除率25.2%を引いただけの値」です。何も考えずに買い続けたときの理論値で、 これを下回るということは、選び方が害になっていることを意味します。

期待値で選ぶと64.2%。何も考えずに買った場合の74.8%より 10ポイント低いという結果でした。選ばないほうがましだったわけです。

なぜ壊れるのか

原因は、確率のずれ方が一様ではないことにあります。 わたしたちのモデルは1着の確率についてはよく合っていますが、 それを3連単の120通りに展開する過程で、大穴の確率を市場の約1.8倍に高く見積もる癖があります。

期待値は「確率 × オッズ」です。オッズが400倍の買い目に対して、 モデルが本当は1%のところを2%と見れば、期待値は8.0という途方もない値になります。 つまり期待値の上位は、確率を最も大きく間違えた買い目で埋まる。 「期待値が高い」ことが「確率を見誤っている」ことの目印になってしまうという、 やっかいな構造です。

実際にあった数字:単勝で期待値の最大値が172という買い目がありました。 397倍の艇にモデルが43.3%の勝率を与えていたためです。 上位10件のうち8件が外れました。

見えているオッズは、買えるオッズではない

ここまでは「モデル側の理由」でした。もう一つ、市場側の理由があります。 そしてこちらは、舟券を買っている方なら心当たりがあるはずです。

締切前に見たときは期待値が100%を超えていたのに、 確定してみるとオッズが下がっていた——という経験です。 これは気のせいではなく、向きの決まった現象でした。

締切の約3分前(中央値283秒前)と、締切直前(中央値47秒前)に 同じレースのオッズを取得して突き合わせました。 3,795レース・19,814買い目です。

3分前の含意確率件数確定までのオッズ変化ばらつき
1.8%(大穴)3,3030.61倍0.72
4.1%3,3020.82倍0.56
7.0%3,3020.94倍0.52
12.3%3,3021.04倍0.48
25.1%3,3021.11倍0.44
64.7%(本命)3,3031.13倍0.27
そもそも動く量が大きく、5%以上動く買い目が83.4%、10%以上が71.6%あります。 「ばらつき」は対数での標準偏差で、大きいほど読みにくいことを表します。

締切間際に大穴が買われ、本命が売られています。 大穴のオッズは平均で0.61倍——つまり4割近く下がって確定します。

具体的にどうなるか。3分前に40倍だった買い目を見つけ、 モデルの確率が3%だったとします。期待値は 0.03 × 40 = 1.20。 100円が120円になる計算です。
ところが確定オッズは平均0.61倍なので、実際に付くのはおよそ24倍。 すると期待値は 0.03 × 24 = 0.74
「期待値120%」だと思って買ったものが、実際は74%だったことになります。

これは期待値ベットにとって最悪の組み合わせです。 前の章で見たとおり、期待値の上位は大穴で埋まります。 そして大穴こそ、締切までにオッズが最も下がる帯です。 モデル側の癖と市場の動きが、同じ方向に効いて二重に殴ってくる。

逆に、確率の高い順に買う場合は人気側を買うことになるので、 オッズは 1.11〜1.13倍と有利な向きに動きます。 実際、同じ625レースで比べると、締切3分前に買った場合が90.4%、 締切46秒前まで待った場合が81.9%でした。待つほど不利になります。

確定オッズを予測できないか

動きに向きがあるなら、補正すれば「本当の期待値」を計算できるはずです。 実際に試しました。3分前の確率と人気順位から確定オッズを予測する式を、 前半のデータで学習し、後半で評価しています。

予測のしかた誤差(RMSE・対数)
3分前の値がそのまま確定すると仮定0.579
人気帯ごとの平均で補正0.533
確率と順位から回帰で補正0.528

誤差は8.7%しか縮みませんでした。残った0.53という値は、 個々の買い目では上下に1.7倍ほどぶれることを意味します。 平均的な偏りは補正できても、目の前の1点がどう動くかは当てられません。 わたしたちはこの補正を「平均の偏りを直す」目的でだけ使い、 個別の買い目の期待値を信じる根拠にはしていません。

そしてここが肝心です。本稿の64.2%という数字は、 確定オッズを最初から知っていた場合の成績です。 実際には、買う時点で分かるのは3分前のオッズだけで、 そこから大穴は0.61倍に下がります。 実戦での期待値ベットは、64.2%よりさらに悪くなります。

切り分けてみる

「期待値そのものが悪い」のか「大穴の期待値だけが悪い」のかを分けて測りました。 方法は簡単で、買う前に分かる情報だけ——つまりオッズや人気順位——で 候補を先に絞ってから、その中で期待値を使います。

3連単の場合

絞り方(期待値1.0以上を最大10点)回収率
絞らない(120通りすべてが候補)70.7%
人気1〜10番以内から81.0%
人気1〜20番以内から83.0%
人気1〜30番以内から80.0%
10,317レースでの実測。前半・後半に割っても同じ向きに出ます(人気1〜20で81.0% / 84.0%、対照は75.3% / 77.5%)。

絞らないと70.7%まで壊れ、人気帯で切ると83.0%まで戻りました。 期待値が悪いのではなく、期待値が拾ってくる大穴が悪いことがはっきりします。

券種によっても違う

同じことを7つの券種で測ると、もう一つの構造が見えました。

券種期待値で選ぶ確率で選ぶ
単勝(当てる順位は1つ)119.1%88.3%
2連複92.1%82.3%
2連単90.2%81.0%
3連複83.4%79.2%
3連単(当てる順位は3つ)80.0%
6,606レースでの実測。3連単の期待値は的中回数が41回しかなく、 数字を出しても意味がないので伏せています。

当てなければならない順位が少ない券種ほど、期待値がうまく働きます。 単勝は1着だけを当てればよく、モデルの1着確率をそのまま使えます。 一方3連単は1着の確率を120通りに展開する必要があり、 その過程で本命が潰れ大穴がふくらむ——先ほどの癖がここで出ます。

ただし単勝の119.1%も、そのままでは信用できません。 中身を開けると、先ほどの「397倍に43.3%」のような買い目が数字を作っていました。 オッズ20倍以下に限ると110.4%(95%区間 104.4〜116.7)に落ち着き、 こちらは前半・後半・年ごと・期待値の帯ごとの4通りで確かめても同じ向きに出ます。 それでも「勝てる」とは書きません。 自分が買えばオッズは動きますし、単勝の市場は3連単に比べてはるかに小さいためです。

結論

一般には「期待値が高い買い目を狙え」と言われます。 その助言自体は間違っていませんが、成立するには2つの前提が要ります。 自分の確率が信用できることと、見えているオッズで買えることです。 3連単の大穴では、そのどちらも満たされません。

期待値という言葉は強い響きを持っています。 計算式も単純で、数字が1.0を超えていれば正しいことをしている気になれます。 けれど実際には、その1.0を超えさせているのは自分の確率の誤差か、 締切までに消えるオッズのどちらかである場合がほとんどでした。

この検証について

使ったのは公開データだけです。買い目は結果を見る前に決め、 清算には公式の確定払戻金を使っています。回収率には必ず95%信頼区間を添えました。 点推定だけを見ると、存在しない優位を追いかけることになるためです。

限界も書いておきます。回収率の検証には確定オッズを使っています。 公式サイトから遡って取得できるのがこれだけだからです。 実際に買えるのは締切前のオッズなので、 本稿の数字は実戦より有利な条件で測ったものになります。 オッズの動きの章はこの差を埋めるための実測で、 こちらは締切前に2回取得した前向きのデータを使っています。

実際、当初は405レースで「期待値を使うと101.0%」という数字が出ていました。 サンプルを3,305レースまで増やすと64.2%に反転しました。 小さなサンプルで出た好成績が、規模を広げると消える—— この経験はこれまでに何度もあり、そのたびに記録しています。

本稿の数値は特定の期間・条件での実測値であり、将来の結果を示すものではありません。 当サイトは公開データのみを用いた統計予測を提供するもので、的中や利益を保証しません。 舟券の購入は20歳以上の方に限られます。
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